D.湯の丸エリア

火山の上に栄えた栄華の歴史とおもかげ

浅間・烏帽子火山群

浅間山は、西側にある烏帽子火山群の火山活動が次第に東へと推移した延長であると考えられ、 浅間・烏帽子火山群と総称されることがある。 烏帽子火山群の噴火の中心は、古くは、一番西側の烏帽子岳付近にあり、徐々に東方に移動したとされている。 浅間火山でも黒斑火山から東へ移動し、現在の前掛火山の活動に至っている。 また、現在の浅間火山のマグマ溜まりについても、浅間火山から西方にずれた烏帽子火山群の真下あたりにあることが 調べられており、烏帽子岳から前掛山までの火山活動は一連のものとして捉えることができる。

花の名山と天然記念物

湯の丸エリアの山々は、多くの高山植物が見られる花の名山として知られる。 湯の丸山のレンゲツツジ群落は国の天然記念物に指定されている。 さらに、県の天然記念物に3種の高山蝶(ミヤマシロチョウ、ミヤマモンキチョウ、ベニヒカゲ)が指定され、 ともに地域住民ボランティアによる保全・保護活動が実施されている。

サイト紹介

D-1.湯の丸レンゲツツジ群落

「関東で随一」とも言われる、60万株を超えるレンゲツツジ(日本固有種、群馬県花)の 群落が自生しており、1956(昭和31)年に国の天然記念物に指定された。天然記念物の指定地域は 海抜1,585mから湯の丸山山頂の2,101mに及び、面積は272haと広大で、6月中旬~7月上旬にかけて 高原を真っ赤に染めて湯の丸山一帯を覆い尽くす。

D-2.鹿沢温泉・新鹿沢温泉

鹿沢温泉は古くは“山の湯”とも呼ばれ、湯の丸山の中腹の標高1,525mに位置し、 泉質はpH7.0の炭酸水素塩泉で、胃腸病や冷え症、神経痛などに効果がある。源泉温度は46℃、 毎分480ℓが自然湧出している。古くから祢津領と上州の国領の国境論争が盛んな場所であり、 既に1656(正保2)年には、この件に関する文書が残されている。温泉名称の「かざわ」とは、 手負いの鹿が湯治をしていたところを発見した開湯伝説に由来しているとされる。 江戸から明治の時代にかけて湯治場として発展していったが、1918(大正7)年の大火で温泉街は焼失した。 温泉街は紅葉館の一軒を残し、後に引湯管を整備して現在の新鹿沢温泉の場所に移転した。 「雪山賛歌」発祥の地としても知られ、紅葉館の向かいには「雪山賛歌の碑」が建てられている。 嬬恋村では、正午を告げる防災無線のチャイムに雪山賛歌のメロディが使用されており、現在も多くの人々に親しまれている。

D-3.鹿沢園地

上信越国立公園内、標高1,400mに位置し、「清流の小径」、「かえでの小径」という 2つの自然学習歩道と、野草園、インフォメーションセンター、情報ステーション、キャンプ場、小さな湿原、 ひろば、宿泊施設休暇村鹿沢高原などからなる園地。鹿沢園地内の各エリアは変化に富み、動植物も多様である。 特に、野草園の植物の種類数は多く、駐車場のすぐ近くで気軽に野草と触れ合うことができる。 全長1.6kmの「清流の小径」は、湧水川をところどころ渡りながら森の奥へと進む小径で、渓流沿いの自然を 見ることができ、全長1.4kmの「かえでの小径」は、湧水川と湯尻川という2つの渓流に沿いながら森の中を進む小径で、 自然林の様子を観察できる。併せて「鹿沢園地自然学習歩道」として整備されている。湯尻川歩行エリアや湧水川エリア、 カラマツ・ミズナラ林エリア、ヤマネコースエリアなど9つのエリアがあり、清流のせせらぎと野鳥のさえずりに 耳を傾けながら、水辺の動植物を間近に見ることができる。また、木道が設けられているため、車椅子での散策も可能で、 途中に設置されているベンチで休憩しながら、森の中でゆったりとした時間を過ごすことができる。 この木道は「上信越高原国立公園鹿沢園地自然学習歩道施設森の小径と鹿沢インフォメーションセンター」という作品名で、 土木学会デザイン賞2009の優秀賞に輝いている。

D-4.たまだれの滝

湯の丸高原と新鹿沢温泉を結ぶ湯尻川歩道の中ほどに位置する。桟敷山から染み出た 水が幾本もの白い絹糸を束ねたように流れ落ちているその様子 が玉飾りの付いたすだれに 見えることから 、「たまだれの滝」と呼ばれている。水量はそれほど多くなく、落差も上段は 5 メートル程度という小さな滝である。 たまだれの滝の源泉は、嬬恋村の水道にもなっている清浄な水である。滝の岩は厚く苔に 覆われ、清流にしか生息しないハコネサンショウウオなども生息している。

D-5.百体観音

旧長野県東部町(現長野県東御市)から峠を越えて旧鹿沢温泉までの山道約12km(100丁)は 「湯道」と呼ばれ、一番から百番までの「丁石」と呼ばれる百体の観音像が、1丁(約110m)ごとに道脇に安置されている。 この百体観音は、旅の安全を願う道標として「地蔵峠道しるべ観音」とも呼ばれ、この観音像を頼りに大勢の湯治客が 霊湯で名高い鹿沢温泉へ通った。 造立された百体観音は、聖観音や千手観音をはじめとした“六観音”で、衆生を地獄や餓鬼などの迷界から救済すると 言う有り難い観音菩薩たちであった。一番・如意輪観音は、旧長野県東部町新張村(現長野県東御市新張)にあり、 県境の標高1,733mの地蔵峠に八十番・十一面観音があり、鹿沢温泉の紅葉館脇に百番・千手観音がある。 この百番の観音像は一番と共に最も豪華で、千手観音・半肉立像、仏体の身長は128cmで、台座からの総高は242cm、 他の百体のように石材は安山岩で、台座は六角、円形等4重で、特に蓮華座の花弁の大きな浮き彫りが力に満ちている。 台座には「願主湯本中」とあるため、寄進者は鹿沢の人達だが、台座の他の面に世話人として新張村の8名の名がある。 この世話人という表現から新張の人々が石材の運搬、礎石の工事等の奉仕をしたものであろうと推察されている。 石仏は一体一体大きさも形も違い、10番ごとに大きく造られている。嬬恋地内にある観音像は八十番から百番である。

D-6.烏帽子火山群

烏帽子火山群は、長野・群馬両県の県境付近を東西約22kmにわたって火山列を形成する 烏帽子・浅間火山群の西部を占める。約100万年前から8万年前頃まで活動を続けていた古い火山群で、 烏帽子岳(2,066m)、角間山(1,981m)、鍋蓋山(1,829m)、三方ヶ峰(2,041m)、高峰山(2,106m)、 水ノ塔山(2,202m)の小型~大型の成層火山と、湯ノ丸山(2,101m)、村上山(1,747m)、桟敷山(1,931m)、 小桟敷山(1,852m)、東篭ノ登(2,228m)、西篭ノ登(2,212m)などの溶岩ドーム群から構成される。 古い時代の火山群であるが、西から東へと活動の中心を移動しながら火山体を形成し山脈を成した過程が明らかとなっており、 溶岩流を繰り返してできた成層火山や粘性の高い溶岩により形成された溶岩ドームなど、 多様な火山活動の様式と一連の火山体の形成過程をストーリーをもって知ることができる点は火山学的に重要である。 また、日本の水系を二分する中央分水嶺の一部を構成しており、地理学や地形学的にも貴重である。 さらに、比較的容易に登山することができ、その過程では多様な植物を観察することができるため、 植物の観察や学習、ツーリズムへの活用など、様々な分野で有効に活用することができるサイトである。 なお、このサイトからは、日本百名山のうち、44もの山を見ることができる。

D-7.嬬恋農場

ばれいしょ生産の安定性向上のために必要なばれいしょ原原種の生産・配布を目的として 1947(昭和22)年に「農林省嬬恋馬鈴薯原原種農場」が設立され、1986(昭和61)年に 「農林水産省種苗管理センター嬬恋農場」、2001(平成13)年に「独立行政法人種苗管理センター嬬恋農場」、 2016(平成28)年からは「国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センター嬬恋農場」となり、現在に至る。 ばれいしょは、気象条件や地味などの諸条件に対して適応性が高く、食用や加工食品としてもその用途は広いことから 重要な畑作物とされているが、塊茎を用いて増殖しているため、増殖率は低く、一端病気に罹るとそれが伝搬する という性質がある。このため、我が国ではウイルスフリーの種いもを効率的に増殖し流通できるシステムが取られており、 その源流とされるものが原原種であり、毎年採種道県に供給されている。嬬恋農場は、種いも生産の適地である浅間山の北麓、 標高1230メートル前後に拉置する田代の地に設立された。最低気温がマイナス15~20度となり、人里を離れた地での 設立当初の作業は困難を極めたが、関係者の並々ならぬ努力によって、この施設は発展を遂げ、西日本を中心とする 全国各地にばれいしょの原原種を供給するなど大きな役割を果たしている。